
説明のない賃金控除と残業代未払いで労働基準監督署に相談した事例
私は建設現場で働く技能実習生です。
ある月の給料明細を見たとき、驚きました。
Wi-Fi使用料、寮の光熱費、工具代など、事前に説明されていない費用が給料から引かれていたのです。
しかも、毎日2〜3時間は残業しているのに、残業代は1時間400円程度しか支払われていませんでした。
「これはおかしい」と思い、同じ寮の仲間に相談したところ、みんな同じ状況でした。
私たちは労働基準監督署に相談することを決めました。

| 出身国 | ネパール |
|---|---|
| 日本語能力 | N4程度 |
| 職種 | 建設(技能実習) |
| 就職ルート | 技能実習生からの就職 |
| トラブル種別 | 労働条件に関するトラブル |
| 参照元 | 厚生労働省 – 技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和2年) |
まつむら賃金からの控除は、法律で定められた税金や社会保険料以外は、労使協定(賃金控除協定)がなければ認められません。また、時間外労働の割増賃金は、通常の賃金の25%以上で計算する必要があります。これらに違反している場合、労働基準法違反となります。
給料から勝手に引かれていた様々な費用
事前説明のない費用が次々と控除されていた
私が日本に来て3か月が経った頃のことです。
給料明細をよく見ると、基本給から様々な項目で控除されていることに気づきました。
控除項目には、Wi-Fi使用料(月3,000円)、寮の光熱費(月8,000円)、工具代(月5,000円)、作業服代(月2,000円)などが記載されていました。
これらの費用について、入社時には一切説明を受けていませんでした。
特にWi-Fi使用料については、寮にWi-Fiがあることすら知らされていませんでした。
工具は会社から支給されたもので、自分で選んだわけでもありません。
私は上司に「これらの費用はなぜ引かれているのか」と聞きました。
すると「会社が立て替えて払っているものだから、給料から引いている」と言われました。



労働基準法第24条では、賃金は全額を労働者に支払わなければならないと定めています。例外として、税金や社会保険料、労使協定で定めた項目のみ控除が認められます。労使協定にない項目を勝手に控除することは違法です。
残業代も正しく支払われていなかった
さらに問題だったのは、残業代の支払いでした。
私は毎日、朝8時から夕方6時まで働いていました。
休憩時間は1時間なので、実働9時間です。
つまり、毎日1時間の残業をしていることになります。
忙しい時期には、夜7時や8時まで働くこともありました。
ところが、給料明細を見ると、時間外労働に対して1時間あたり400円程度しか支払われていませんでした。
私の基本給を労働時間で割ると、1時間あたり1,200円程度になるはずです。
残業代は、本来その25%増しで計算されるべきなので、1時間あたり1,500円以上になるはずでした。
しかし、実際には400円しか払われていなかったのです。



労働基準法第37条では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働に対して、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。1時間1,200円の場合、残業代は最低でも1,500円以上でなければなりません。
労働基準監督署の調査で明らかになった違法行為
同じ寮に住む仲間2人と一緒に、労働基準監督署に相談に行きました。
担当者は私たちの話を丁寧に聞いてくれ、給料明細や雇用契約書を確認しました。
その結果、会社の行為が労働基準法に違反していることが分かりました。
賃金控除協定にない項目を勝手に控除していた
- Wi-Fi使用料(説明なし、同意なし)
- 寮の光熱費(契約書に記載なし)
- 会社支給の工具代(本来会社負担)
- 作業服代(業務に必要なもの)


労働基準監督署の調査で、会社には賃金控除協定がありましたが、その中にWi-Fi使用料や工具代は含まれていないことが分かりました。
つまり、会社は協定にない項目を勝手に給料から引いていたのです。
これは労働基準法第24条第1項違反(賃金の全額払いの原則違反)に該当します。
労働基準監督署は会社に対して、違法に控除していた金額を私たちに返還するよう是正勧告を出しました。



賃金控除協定は、労働者の過半数代表と会社が締結する必要があります。協定で定めた項目以外を控除することはできません。また、業務に必要な工具や作業服は、原則として会社が負担すべきものです。
法定の割増率を満たしていない残業代
残業代についても、大きな問題がありました。
会社は時間外労働に対して一律400円程度しか支払っていませんでしたが、これは法定の割増率(25%以上)を満たしていませんでした。
正しく計算すると、私の場合、1時間あたり最低でも1,500円以上の残業代が支払われるべきでした。
実際には400円しか払われていなかったので、1時間あたり1,100円以上の未払いがあったことになります。
これを数か月分累計すると、大きな金額になります。
労働基準監督署は、労働基準法第37条第1項違反(割増賃金の不払い)として、会社に是正勧告を出しました。



時間外労働の割増賃金は、通常の賃金の計算方法に基づいて正確に計算する必要があります。固定額での支払いは、それが法定の割増率を満たしている場合のみ認められます。満たしていない場合は、差額を支払わなければなりません。
会社が支払った未払い賃金の総額
労働基準監督署の是正勧告を受けて、会社は未払い賃金の計算を行いました。
私と同僚の技能実習生2名、合計2名分の未払い賃金を計算した結果、総額約45万円になりました。
違法控除分と割増賃金不足分の返還
- 違法に控除されていた費用の返還
- 割増賃金の不足分の支払い
- 過去数か月分の累計
- 2名分で総額約45万円
未払い賃金の内訳は、違法に控除されていたWi-Fi使用料、光熱費、工具代などの返還分と、正しく計算されていなかった残業代の不足分でした。
会社は、労働基準監督署の指導に従い、私たち2名に対して、それぞれ約22万円ずつ支払いました。
支払いは一括で行われ、翌月の給料と一緒に振り込まれました。
会社からは「今後は適切に賃金を支払います」という説明がありました。



未払い賃金は、労働基準法第115条により、過去2年分まで請求できます(2020年4月以降に発生した賃金については3年間)。労働基準監督署の是正勧告により、会社が自主的に支払うことが多いですが、支払わない場合は法的手段を検討することもできます。
今後の労働条件の改善
未払い賃金の支払いだけでなく、今後の労働条件も改善されました。
まず、賃金から控除する項目について、改めて説明を受けました。
寮の家賃や食費など、あらかじめ合意した項目のみが控除されるようになりました。
また、残業代は正しい割増率で計算され、給料明細に詳細が記載されるようになりました。
会社は新たに賃金控除協定を作成し、労働者代表の署名を得て、労働基準監督署に届け出ました。



労働条件の変更や賃金控除協定の締結には、労働者の理解と同意が必要です。会社は労働者に対して、控除項目の内容や金額を明確に説明し、給料明細に詳細を記載する義務があります。
同じ問題を抱える技能実習生へのアドバイス
私の経験から、給料から勝手に費用を引かれている、または残業代が正しく支払われていないと感じている技能実習生の皆さんに、いくつかアドバイスがあります。
給料明細を毎月必ず確認する
給料明細で確認すべき項目
- 基本給と労働時間
- 契約書と一致しているか
- 実際の労働時間が正しいか
- 控除項目
- 説明を受けた項目か
- 金額は合意したものか
- 残業代
- 時間数は正しいか
- 割増率は25%以上か
給料明細は、自分の労働条件が正しく守られているかを確認する大切な書類です。
毎月必ず内容を確認し、分からない項目や納得できない控除があれば、すぐに会社に質問しましょう。
また、給料明細は必ず保管しておいてください。
後で問題が発覚した時に、重要な証拠となります。
一人で悩まず仲間や支援機関に相談する
給料に関する問題は、一人で抱え込まないでください。
私の場合は、同じ寮の仲間に相談したことで、みんな同じ問題を抱えていることが分かりました。
複数人で労働基準監督署に相談に行ったことで、会社の問題がより明確になり、解決もスムーズに進みました。
技能実習生を支援する団体や、外国人技能実習機構(OTIT)にも相談できます。
問題解決のための具体的な行動ステップ
給料から勝手に費用を引かれている、または残業代が正しく支払われていない場合、以下のステップで行動してください。
給料明細と契約書を見比べる
まず、毎月の給料明細と入社時に受け取った雇用契約書を並べて確認しましょう。
基本給、労働時間、控除項目などが契約書と一致しているか確認してください。
控除項目と残業代を確認する
控除されている項目について、入社時に説明を受けたか思い出してください。
また、残業代が正しく計算されているか、自分で計算して確認しましょう。
会社に説明を求める
給料明細で分からない項目や納得できない控除がある場合、会社に説明を求めましょう。
上司や人事担当者に丁寧に質問し、書面での回答を求めることも有効です。
労働基準監督署に相談する
会社の説明に納得できない場合、または説明を拒否された場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
給料明細、雇用契約書、労働時間の記録などを持参してください。
技能実習機構や支援団体に相談する
技能実習生の場合、外国人技能実習機構(OTIT)や技能実習生を支援する団体にも相談できます。
母国語で相談できる窓口もあります。
未払い賃金の支払いを求める
労働基準監督署の調査で未払い賃金が確認されたら、会社に支払いを求めます。
通常、是正勧告に従って会社は支払いますが、拒否する場合は法的手段も検討できます。
まとめと読者へのメッセージ
私は最初、「会社が決めたことだから仕方ない」と思っていました。
しかし、仲間と一緒に声を上げたことで、問題を解決することができました。
- 賃金控除協定にない項目を控除することは違法
- 残業代は通常賃金の25%以上の割増率で計算される
- 給料明細を毎月確認し、疑問点はすぐに質問する
- 一人で悩まず、労働基準監督署や支援機関に相談する


技能実習生として日本で働く皆さん、給料から勝手に費用を引かれていたり、残業代が少なすぎると感じたら、それは違法かもしれません。
諦めずに、労働基準監督署や技能実習機構に相談してください。
日本の法律は、外国人労働者も日本人と同じように守ってくれます。
あなたの正当な権利を主張することは、決して悪いことではありません。








