
「練習だから」で片付けられた残業代未払いの是正指導
私は縫製工場で働く技能実習生でした。
毎日、定時で仕事が終わった後も、製品の手直し作業を夜遅くまで続けていました。
しかし、この手直し作業の時間は労働時間として記録されず、残業代も支払われていませんでした。
会社は「手直しは練習だから」と言い、私たちもそれを信じていました。
ある日、労働基準監督署の調査が入り、過去2年分の未払い残業代が支払われることになったのです。

| 国 | 中国 |
|---|---|
| 日本語能力 | N3程度 |
| 職種 | 工業製品製造業(技能実習2号) |
| 就職ルート | 技能実習生からの就職 |
| トラブル種別 | 労働条件に関するトラブル 言語・文化の違いによるトラブル |
| 参照元 | 厚生労働省 – 技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成31年・令和元年) |
まつむら賃金不払残業(サービス残業)は明確な労働基準法違反です。労働時間は客観的な方法で適正に把握する必要があり、すべての労働時間に対して適切な賃金を支払わなければなりません。未払い賃金は、過去2年分(現在は3年分)まで遡って請求できます。
定時後の手直し作業と記録されない労働時間
毎日続く終業後の作業
私が働いていた縫製工場では、午後5時が定時でした。
しかし、5時になってタイムカードを打刻した後も、仕事は終わりませんでした。
上司から「今日作った製品で、縫い目が不揃いなものがある。手直ししてから帰ってください」と言われるのです。
手直し作業は、だいたい夜の9時頃まで続きました。
毎日4時間近く、タイムカードを打刻した後に働いていたのです。
私たち技能実習生11名は、全員が同じように手直し作業をしていました。
最初は、「技術を磨くための練習だから」と言われ、私たちも納得していました。



使用者の指示や黙示の了解のもとで行われる作業は、たとえ「練習」や「研修」と呼ばれていても、労働時間として扱われます。労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。
残業代が支払われない理由
ある日、私は勇気を出して、上司に尋ねました。
「手直し作業の時間は、残業代が出ないのですか」
上司は、「手直しは君たちの技術不足が原因だから、練習として自主的にやってもらっている。だから残業ではない」と説明しました。
私は、自分の技術が未熟だから仕方ないのだと思い、それ以上何も言えませんでした。
しかし、心の中では疑問がありました。
手直し作業は、実際に販売される製品の品質を向上させるための作業です。
会社のために働いているのに、なぜ給料が出ないのだろうか。
でも、技能実習生という立場で、会社に逆らうことは難しいと感じていました。



「自主的」という名目であっても、実際には使用者の指示や要請のもとで行われ、拒否することが事実上困難な場合は、労働時間と認められます。特に技能実習生のような立場の弱い労働者に対する「自主性」の主張は、慎重に判断されます。
労働基準監督署の夜間内偵調査
私たちの工場で賃金不払残業が行われているという情報が、誰かから労働基準監督署に寄せられたようです。
後で聞いた話ですが、労働基準監督署は10日間にわたって夜間の内偵調査を実施していました。
連日、午後9時頃まで工場の照明が点灯している状況を確認していたそうです。
そして、ある日、労働基準監督署の調査員が工場に立入調査に来ました。
記録上は法違反なし、しかし実態は
最初、会社が提出した記録を見ると、時間外労働や割増賃金について法違反は認められませんでした。
タイムカードの打刻時刻は午後5時で、その後の労働時間は記録されていなかったからです。
社長は、「記録以上の時間外労働は存在しない」と主張しました。
しかし、調査員は内偵で確認した事実を社長に示して追及しました。
「10日間、連日午後9時頃まで工場の照明が点灯していた。これはどういうことですか」
証拠を突きつけられた社長は、終業時刻後に製品の手直し作業を行わせていたこと、その労働時間を把握していなかったこと、割増賃金を支払っていなかったことを認めました。



労働基準監督署は、労働基準法違反の疑いがある場合、内偵調査や聞き取り調査などを行い、証拠を収集します。記録上は問題がなくても、実態として法違反があれば、厳格な指導が行われます。
技能実習生からの証言
- 定時後、毎日午後9時頃まで手直し作業をしていた
- この作業は過去2年間にわたって続いていた
- 手直し作業の時間は労働時間として記録されていなかった
- 残業代は一切支払われていなかった


調査員は、私たち技能実習生からも個別にヒアリングを行いました。
最初は、会社に不利なことを言って大丈夫だろうかと不安でした。
しかし、調査員は「正直に答えてください。あなたたちの権利を守るための調査です」と優しく説明してくれました。
私は、手直し作業の実態について詳しく話しました。
他の技能実習生たちも同じように証言し、過去2年間にわたって同様の状況が続いていたことが確認されました。



労働基準監督署の調査に協力することは、労働者の権利です。会社は、調査に協力したことを理由に労働者を不利益に扱うことは禁止されています。もし報復的な扱いを受けた場合は、さらに厳しい行政指導の対象となります。
労働基準監督署の是正勧告と会社の改善
労働基準監督署は、会社に対して厳格な是正勧告を出しました。
是正勧告の内容
- 不払となっていた割増賃金を支払うこと(労働基準法第37条第1項違反)
- 労働時間適正把握ガイドラインに基づいて労働時間を適正に把握すること
第一の是正勧告は、不払となっていた割増賃金の支払いです。
これは労働基準法第37条第1項に違反しており、違法な賃金不払残業(サービス残業)に該当します。
第二の指導事項は、労働時間の適正把握です。
厚生労働省が定める「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づいて、客観的な方法で労働時間を記録し、管理するよう指導されました。



労働時間適正把握ガイドラインでは、タイムカード、ICカード、パソコンのログイン・ログアウト記録など、客観的な方法で労働時間を把握することが求められています。自己申告による労働時間管理は、原則として認められません。
過去2年分の未払い賃金が支払われる
未払い賃金の支払い内容
- 対象者
- 技能実習生全員(11名)
- 支払額
- 過去2年分で総額約60万円
- 内容
- 手直し作業の時間外労働に対する割増賃金
是正勧告を受けた会社は、技能実習生全員11名に対して、過去2年分の未払い賃金を支払いました。
総額は約60万円で、一人当たり平均5万円以上の支払いとなりました。
私は、自分が働いた分の正当な報酬を受け取ることができ、本当に嬉しかったです。
また、労働時間の管理方法も改善されました。
それまでの自己申告による日報から、タイムカードによる客観的な記録方式に変更されたのです。
手直し作業の時間も、きちんと労働時間として記録され、残業代が支払われるようになりました。



賃金の消滅時効は、2020年4月以降に発生した賃金については3年、それ以前は2年です。つまり、過去3年分(または2年分)まで遡って未払い賃金を請求できます。早めに行動することが重要です。
賃金不払残業で悩む技能実習生が取るべき6つのステップ
私の経験から、賃金不払残業で悩んでいる方に向けて、具体的な行動ステップをまとめました。
実際の労働時間を記録する
タイムカードの打刻時刻だけでなく、実際に働いた時間を自分で記録しましょう。
出勤時刻、退勤時刻、休憩時間、残業時間などを毎日ノートやスマートフォンに記録してください。
特に、定時後の作業については、開始時刻と終了時刻を正確に記録することが重要です。
可能であれば、工場の照明が点灯している時間などを写真で記録するのも有効です。
作業内容と指示の有無を記録する
定時後にどのような作業をしたか、誰からの指示で行ったかを記録しましょう。
「手直し」「検品」「清掃」など、具体的な作業内容と、上司や先輩からの指示があったかどうかを記録してください。
会社が「自主的な練習」と主張する場合でも、実際には指示や暗黙の了解があることを証明する証拠となります。
給与明細とタイムカードを保管する
毎月の給与明細とタイムカードのコピーを保管しましょう。
これらは、実際に支払われた賃金と労働時間を証明する重要な証拠です。
給与明細には、基本給、残業代、各種手当などが記載されているはずです。
タイムカードには、会社が把握している労働時間が記録されています。
これらと、自分が記録した実際の労働時間を比較することで、未払い残業代の存在を証明できます。
監理団体や労働基準監督署に相談する
賃金不払残業の疑いがある場合は、まず監理団体に相談してください。
監理団体が適切に対応しない場合や、改善が見られない場合は、労働基準監督署に通報しましょう。
労働基準監督署は、賃金不払残業に対して厳格な対応を取ります。
通報は匿名でも可能ですが、具体的な証拠があるとより効果的です。
また、(法テラス)や外国人支援団体にも相談できます。
未払い賃金の計算と請求を準備する
未払い残業代がいくらになるか、計算してみましょう。
時間外労働には、通常の賃金の25%以上の割増賃金が必要です。
月60時間を超える部分は50%以上の割増となります。
計算が難しい場合は、労働基準監督署や弁護士に相談してください。
未払い賃金は、過去3年分(または2年分)まで遡って請求できます。
改善されない場合は法的手段を検討する
会社が是正勧告に従わない場合や、自主的に未払い賃金を支払わない場合は、法的手段を検討しましょう。
労働審判や民事訴訟を通じて、未払い賃金の支払いを求めることができます。
(法テラス)の民事法律扶助制度を利用すれば、費用の立替や減免が受けられる可能性があります。
一人で悩まず、専門家のサポートを受けることが重要です。



賃金不払残業は重大な労働基準法違反です。泣き寝入りする必要はありません。証拠をしっかり残し、適切な機関に相談することで、正当な権利を守ることができます。
まとめ:働いた分は正当に受け取る権利がある
私の経験を通じて、賃金不払残業で悩んでいる技能実習生の方に伝えたいことがあります。
- 賃金不払残業(サービス残業)は明確な法律違反
- 労働時間は客観的な方法で記録する必要がある
- 未払い賃金は過去3年分(または2年分)まで請求可能
- 労働基準監督署への通報で改善が図られる


働いた分の給料を受け取ることは、当然の権利です。
「練習だから」「自主的だから」という会社の説明を鵜呑みにする必要はありません。
実際に会社の指示や暗黙の了解のもとで働いていれば、それは労働時間であり、正当な賃金を受け取る権利があります。
技能実習生という立場で、会社に意見を言うことは勇気がいることかもしれません。
しかし、日本には労働者の権利を守るための法律と制度があります。
労働基準監督署や外国人技能実習機構、支援団体など、相談できる場所はたくさんあります。
一人で悩まず、証拠を集めて、適切な機関に相談してください。
そして、同じように困っている仲間がいたら、情報を共有し、協力し合いましょう。
私たちには、正当な労働の対価を受け取る権利があるのです。








